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名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)1761号 判決 1970年1月31日

原告

琉球銀行

訴訟代理人支配人

百名健治

代理人

山田弘之助

山田隆子

被告

東海電気工事株式会社

代理人

亀岡孝正

高瀬迪

主文

被告は原告に対し、金九〇、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年六月二二日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

主文同旨の判決および仮執行の宣言。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

(原告の主張)

一、原告は、那覇市において、銀行取引を業務とするもの、被告は、名古屋市に本店を有し、電気、土木および建築工事などを業務とする会社である。

二、被告は、昭和三三年六月頃、沖繩に工事部を新設して、以来、沖繩本土内で、米軍施設の建設、電気工事などを行なつてきたが、昭和三八年頃より、アメリカのドル防衛政策の一環として、これら工事も、沖繩在外会社の落札を認められなくなるに及んで、被告の米軍工事入札部門に当らしめる法的主体として、同年三月二〇日、訴外東海インターナショナル株式会社(現商号東海建設株式会社。以下、単に、訴外会社と称する。)を設立した。

三、原告は、訴外会社が設立されるに及んで、その事業の運転資金について、訴外会社の代表者より融資の依頼を受け、貸付取引をするようになつた。

(一)そして、原告は、昭和四〇年二月九日、訴外会社との間で同会社所有の不動産を担保に提供せしめて、同会社を債務者として、極度元金三九、六〇〇、〇〇〇円(一一〇、〇〇〇ドル)の銀行取引契約(原契約)をした。

(二)原告と訴外会社は、以来、右銀行取引契約を原契約として、その極度額を増額する契約を締結し、取引し、原告は、担保として、訴外会社が米軍工兵隊から発注された請負工事により右発注元に対して取得した工事代金債権の譲渡を受け、逐次支払われる毎に三〇パーセントないし七〇パーセントを自己の貸付金の弁済に充当し、残金を訴外会社へ払戻す方式によつて、その貸付金の回収確保を図つてきた。しかるところ、原告は、昭和四二年五月頃、米軍当局から、訴外会社が、資金難に陥つて工事の進行が遅れているから、原告の前示貸付金の回収方式につき、その回収率(当時の回収率は七〇パーセント)をゆるめ、これを五〇パーセントに低減されたい、もし現状のままで工事がはかどらなければ、発注を取消す旨の申入を受けた。そこで原告は、訴外会社が米軍に対し有した工事請負代金債権の残額が、なお原告の訴外会社に対する貸付未回収額を充分カバーできる額であつたので、前示方式による原告の回収率を五〇パーセントに低減し、訴外会社の事業遂行に協力する趣旨で米軍当局の申入れを応諾した。

(三)しかしながら、右措置の後に、原告は、さらに訴外会社から、この際原告の回収率を零とし、原告への返済を停止しなければ残工事の資金繰りがたたないからと回収の一時猶予を懇望され、ついで、同年七月、米軍当局からも、同様の要請を受けた。そこで、原告は、訴外会社の企業継続に協力する趣旨で、右要請に応ずべきであるとの意見にも傾いたが、しかしながら、一方、原告が無条件に右申入れに応じれば、当時、原告が訴外会社に対し有した残高金二三〇、〇〇〇余ドルの貸付債権を無担保、無期限に陥らしめることにもなるので、訴外会社の経理状況を調査し、その結果、訴外会社の親会社である被告の保証を受けることが不可欠である、との結論に達し、その旨、訴外会社に回答した。

(四)これに対し、被告は、同年八月三日付被告社長発信の書信により、訴外会社の原告に対する借入金の返済につき、被告が一切の責任を負い全面的にバックアップする旨、申し入れてきたので、原告は、同月八日訴外会社との間に、前示原契約の極度額を金一二〇、〇〇〇、〇〇〇円(三五〇、〇〇〇ドル)に増額する旨の債権極度元金増額契約を締結した。

四、そして、原告は、被告をして右八月八日付の債権極度元金増額契約にともなう訴外会社の債務を被告において保証させるべくこれに関する被告側の手続を促進せしめ、被告は、同月一一日同社取締役会決議を経て、同月二六日、原告に対し、保証書など関係書類を提出して、原告に対し三(一)記載の銀行取引契約ならびに三(四)記載の債権極度元金増額契約にもとづき、訴外会社が原告に対し取引上負担する債務の支払につき、保証極度元金額を金二五〇、〇〇〇ドル(九〇、〇〇〇〇、〇〇〇円)、保証期間を昭和四二年八月以降昭和四五年八月までとする内容にて保証をなす旨を約した。

五、原告は、訴外会社の要望により、前記銀行取引契約ならびに債権極度元金増額契約にもとづき訴外会社へ逐次、その営業資金の貸付をなしてきたところ、昭和四三年三月三〇日、原告は、訴外会社から、従前からなしてきた手形貸付金の回収にかえて、満期同年四月二日、支払地那覇市、支払場所琉球銀行本店、受取人原告とする額面金額金三一、四八〇ドル、金九九、九六〇ドルおよび金一九九、二〇〇ドルの約束手形三通の振出を受け、訴外会社あて右同日、右同内容の三口の手形貸付をなした。そして、これにより現在、合計金一一九、〇三〇、四〇〇円(三三〇、六四〇ドル)の貸付(元金)債権を有するところ、これが弁済期昭和四三年四月二日を既に経過した。

六、よつて、原告は、被告に対し、前記の保証契約にもとづき商法第五一一条第二項により、被告の負担する連帯保証金九〇、〇〇〇、〇〇〇円ならびにこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四三年六月二二日から完済に至るまで年六分の商事法定利率による遅延損害金債務の履行を求めるものである。

(原告の主張に対する被告の答弁)

一、原告の請求原因第一項は認める。

二、同第二項中、訴外会社が原告主張の日時に設立されたこと、被告が、昭和三三年頃、沖繩工事部を設け、現地で米軍工事を行なつてきたことを認める。訴外会社と被告会社とは、形式上も実質上も、別会社であつて、被告の単なる入札部門ではない。

三、同第三項中、原告が、訴外会社に事業資金の貸付をするなどの取引をしていたこと、原告が訴外会社と(一)、(四)記載のような銀行取引契約を締結したことはいずれも認める。但し、右契約中、極度額の定めについては、不知である。

四、同第四項記載の保証契約締結の事実は認める。

五、同第五項は、不知である。

(被告の主張)

一、本件保証契約は、主務大臣の許可なく締結され、強行法規に違反し、無効である。

(一)すなわち、外国為替及び外国貿易管理法(以下、単に、外為法と略称する。)第三〇条には、「政令で定める場合を除いては、何人も、」、「居住者と非居住者間の債権、」、「発生などの当事者となつてはならない。」と規定されており、また、第二七条には、「非居住者に対する支払」も、「改令で定める場合を除いては、してはならない」と定められており、原被告が、これら取引の当事者となるについては、外国為替管理令(以下、単に、外為令と略称する。)第一三条第二項、その支払については、同令第一一条第一項などにより、大蔵大臣または主務大臣の許可を要することが明定され、かつ、これらの触法行為は、外為法第七〇条が、三年以下の懲役もしくは三〇万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると、極めて重い刑罰をもつて臨んでいるところである。

外為法のかかる規定の形式ならびに真の立法の目的―外為令第一条には、「国民経済の復興と発展に寄与する」といういわゆる国民経済的、国家公益的目的を有することが掲記されている―などからも、これらの規定は、単なる取締法規と解すべきではなく強行法規と解すべきである。

(二)しかるに、原、被告間において、形式上、保証極度額元金金二五〇、〇〇〇ドル(金九〇、〇〇〇、〇〇〇円)に関する保証契約を締結したのであるが、右保証契約は、外為法第三〇条、外為令第一三条第一項第一号に該当し、したがつて、外為令第一三条第二項に定める大蔵大臣または主務大臣の「許可」を必要とするのであるが、本件契約については、事前および事後においても、今日に至るまで、この許可を得ていないのであるから、右保証契約は、法令上当事者となることができない者の間で締結されたものとして無効である。

二、かりに、本件保証契約が、無効でないと仮定しても、外為法の規定の趣旨から、本件保証契約は、大蔵大臣または主務大臣の許可を停止条件として締結されたものと解すべきであるから、未だ右許可のない現在においては、本件保証契約の効力は発生していない。

三、かりに、以上の主張が認められないとしても、本件保証契約は、被告の錯誤にもとづくもので、無効である。

(一)被告は、原告と訴外会社の再建のため金二五〇、〇〇〇ドル(金九〇、〇〇〇、〇〇〇円)の保証契約をするにあたつて、強行法規である外国為替管理法令違反の問題が生じないかどうか、また、はたして、原告が、訴外会社の再建のため具体的にどの程度の援助をしてくれるかの確信がもてなかつたので、原告に以上二点について、問いあわせたところ、第一の点については、一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円相当額以内の保証であれば、大蔵大臣または主務大臣の許可は必要ではなく、単に届出のみで足りるのであるから、金二五〇、〇〇〇ドル(金九〇、〇〇〇、〇〇〇円)の保証については、法律的に全く心配がないとのことであり、また、第二の点については、原告から訴外会社に貸付極度額を金一〇〇、〇〇〇ドルから金三五〇、〇〇〇ドルに増額したので、「この増額分金二五〇、〇〇〇ドルを訴外会社の真の再建のための運転資金として融資する。」、なお、その他、「会社のトップの人事を推薦する。」、「原告から管理者を派遣する。」、「民間工事受注の斡旋をする。」、「ケースバイケースで資金を融資する。」、「貸出金利は、棚上するよう処置を考える。」などの具体案が提示され、原告において、その履行を確約したので、被告はその言を信じて、訴外会社のために、原告との間で、本件保証契約を締結するに至つたのである。

(二)しかるに、第一の点については、本件保証契約締結後、被告が主管官庁に照会したところ、被告の訴外会社に対する持株比率は二五パーセント以上でない(昭和三九年九月以降は資本金金三五、〇〇〇ドルのうち金七、〇〇〇ドル、すなわち、二〇パーセントである。)から、訴外会社は、被告の支配する現地法人でなく、本件保証契約を締結するには、予め大蔵大臣または主務大臣の許可を要し、しかも、本件保証契約締結行為は、外為法第七〇条に違反し、刑事罰の適用さえある重大な結果を生ずるものであることが判明した。

このような事態は、被告の信用・名誉にかかわることでありいやしくも、本件保証契約をなすにあたつて、大蔵大臣または主務大臣の許可を必要とすることが判明しておれば被告は、許可を得ずして、刑事罰則まで適用される本件保証契約を締結することはなかつたのであるから、被告のなした本件保証契約の締結の意思表示は、その要素について錯誤があり無効である。

(三)また、原告は、被告に確約したにもかかわらず、訴外会社への貸付極度額増額分金二五〇、〇〇〇ドル(九〇、〇〇〇、〇〇〇円)を運転資金として全然融資しなかつたのみならず、その他の諸条件も何ら実施しなかつた。

すなわち、被告は、原告が提示し、確約した金二五〇、〇〇〇ドル(九〇、〇〇〇、〇〇〇円)を訴外会社に運転資金として融資し、さらに、原告が示したその他の諸条件を実現して協力してくれれば、訴外会社の再建の可能性は充分あるものと考え、原告と本件保証契約を締結したのであるが、もし、当初から原告が極度額増額分金二五〇、〇〇〇ドルを訴外会社の運転資金として融資せず、その他の諸条件についても実施しないのであれば、訴外会社の再建はとうてい不可能であり、したがつて再建の可能性のない訴外会社のため、被告が本件保証行為をなすことはなかつたのであるから、被告のなした本件保証契約締結の意思表示には、その要素について錯誤があり無効である。

四、本件保証契約は、原告の詐欺によるものである。

(一)すなわち、当時、原告は米軍当局から、訴外会社に右工事を早急に完成させるようにと盛んに圧力をかけられており、原告としても、この工事が完成に至らなければ、それによつて生ずる原告の損害額(融資金回収不能額)は、約金二三〇、〇〇〇ドルないしは金二五〇、〇〇〇ドルと考えられ、そこで、原告は、その損害を被告に保証させることによつて回避しようと企て、その意思がないのに、これあるものの如く装つて、金二五〇、〇〇〇ドル(金九〇、〇〇〇、〇〇〇円)を事業運営資金として、訴外会社に融資すること、および前記三(一)記載のその他の諸条件を実施する旨申し述べ、被告を欺罔し、その旨被告を誤信せしめたうえ、これにより、本件保証契約を締結せしめたものである。

(二)よつて、被告は、原告に対し、昭和四三年九月二六日の第二回本件口頭弁論期日において本件保証を承諾するとの意思表示を取消す旨の意思表示をした。

五、かりに、原告が訴外会社に対し、その主張のような貸付をなし、貸付債権を有したとしても、原告は、昭和四二年九月以降昭和四四年一月頃までの間に、訴外会社所有の重機械類を処分し、その売却代金から金三〇、〇〇〇ドルないし四〇、〇〇〇ドルの弁済を得ている。

(被告の主張に対する原告の答弁)

一、(一)本件保証契約については、大蔵大臣または主務大臣の許可は必要ない。

外為法は、第三〇条において、「政令に定める場合」を除き居住者と非居住者間の債権の発生に関する行為を禁止しており保証行為もまたこれの例外ではない。しかし、右について、外為令は、まず第一三条において、大蔵大臣または主務大臣の許可を条件とする除外事例を例挙するとともに、さらに、第二六条第一項において、大蔵大臣または通商産業大臣の指定をもつて、右の許可なる条件そのものも排除し得ると規定している。そして、貿易外取引の管理に関する省令(昭和三八年一一月二日大蔵省令第五八号。以下場合により、単に省令と称する。)第三条は、右外為令第二六条第一項の排除事例を指定する規定の一つであり、同条が指定する省令別表第一一の第二項(イ)(3)は、「本邦法人が、その海外支店(本邦法人の支配する現地法人を含む)が非居住者から貸付または保証を受けることに関連して、当該非居住者に対して一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円(但し、右限度額の定めは、省令の改正により、昭和四四年九月一日以降三六〇、〇〇〇、〇〇〇円に改められた。)未満の保証をなす契約をなす場合」を挙げている。

しかして、訴外会社は、形式上は、被告とは別個の法人ときれているが、

(イ)その設立の趣旨が、被告の沖繩における米軍関係工事事業を前示の如き米国のドル防衛政策の影響を回避しつつ遂行すべく、

(ロ)被告と同一業務を設立目的として、

(ハ)その発行済株式は、現在三、五〇〇株(三五、〇〇〇ドル)であるが、そのうち65.1パーセントにあたる二、二八〇株(二二、八〇〇ドル)は名義株で、実質上は被告によつて保有され、

(ニ)その取締役に、漸次被告海外工事部担当の取締役などを、その代表者に被告の沖繩工事部長を配するほか、従業員を被告従業員と兼任させ、

(ホ)その業務も、沖繩における工事は被告に下請させ、本土の工事は被告から下請し処理するなどの形式をとり被告と一体となつて業務を遂行しており、実質上、被告の完全な支配下にある現地法人であることには、何等疑問の余地はない。

したがつて、本件保証契約は、右明文の除外例の定めるところにより、大蔵大臣または主務大臣の許可を得ないで、原被告が当事者となり、有効になしうるものである。

(ニ)また、かりに、本件保証契約の締結につき大蔵大臣または主務大臣の許可を要する旨の外為関係法令の適用があるとしても、右外為関係法令は、単に行政上の取締法規にすぎず、抵触行為が、私法上無効となるものではない。

すなわち外為令は、本来自由になされてしかるべき対外取引を外国貿易の正常な発展、国際収支の均衡・通貨の安定および外貨資金の有効な利用確保などの政策的見地から規制し、取締ろうとする目的をもつて制定された単なる行政取締法規である。

もつとも、外為法が、その違反行為について、刑罰を科すべきものとしていることは、被告主張のとおりであるが、右の立法趣旨および前示取締目的も、その為替交換の段階での規制を通じ、これを実現しようとしているにとどまるのに鑑みれば、外為令の解釈につきいやしくも、債権関係が対外的なるが故をもつて債務免脱の弄策を与え、国際信義を侵して国際取引の発展を阻害するが如き結果を容認すべき解釈を入れる余地はない。本件保証契約は、単なる行政上の取締法規違反にとどまり、私法上その効力を云々する余地のないものである。

二、本件保証契約は条件付でない。

外為令には、農地法、宗教法人法の如く所定の許可をもつて取引行為の成否にかからしめる明文はないばかりか、外為令第一一条が無許可の債権関係の存在を当然予定して、その支払について規制していることからしても、同法令が許可を停止条件としていないことは明らかである。

また、原・被告間において、大蔵大臣または主務大臣の許可を停止条件とする合意がなされた事実もない。

三、被告主張第三項中、錯誤の主張事実は否認する。

(イ)本件保証契約につき、大蔵大臣または主務大臣の許可が必要でないこと前記のとおりであるから、大蔵大臣または主務大臣の許可が必要でないとして、本件保証契約を締結した被告の真意が、表示したところないし客観的事実と齟齬するところは全くない。この点に関する被告の錯誤の主張は排斥を免れない。

(ロ)また、本件保証契約は、原告が訴外会社から取立て貸付債権の回収を猶予する措置をとることに伴い予想される原告の訴外会社に対する貸付債権回収の困難を回避し、これが回収を確保すべく担保の趣旨で、そして、原告は、その趣旨どおり、貸付債権の回収を猶予し、これによつて、被告は米軍当局から支払われる工事代金をそのまま自己の運転資金として確保し利用できたのであるから、被告が本件保証契約を締結する動機ないし趣旨としたところは、原告によつて実現されており、被告の真意が表示されたところないしは客観的事実と齟齬したことはない。

四、被告主張第四項中詐欺の主張事実は否認する。

本件保証契約は前示三(ロ)主張の趣旨で締結され、被告主張のいわゆる諸条件は、本件保証契約によつて訴外会社が原告から貸付金債権の回収猶予の措置を得、危機を脱し得たことを前提とした訴外会社の再建に関する原・被告間の話題にすぎず、これをもつて、本件保証契約締結の前提ないしその内容条件とした事実は存しない。

したがつて、原告が本件保証契約の締結にあたり、被告を欺罔したとの主張は、失当である。

五、原告が、訴外会社に対する債権の一部につき、弁済を受けた事実は否認する。

第三、証拠<略>

理由

一(一)原告が、那覇市において、銀行取引を業務とするものであること、被告が、名古屋市に本店を有し、電気・土木および建築工事などを業務とする会社であること、昭和三八年三月二〇日、訴外東海インターナショナル株式会社が設立されたこと、原告が、訴外会社が設立された後、同会社に対し事業運転資金の貸付取引をしていたこと、そして、右取引に関し、右原告が、昭和四〇年二月九日、訴外会社との間に同会社を債務者とする銀行取引契約(原契約)を締結したこと、原告が、昭和四二年八月八日、訴外会社との間に、右銀行取引契約の極度元金額を増額する旨の債権極度元金増額契約を締結したこと、以上の各事実については、当事者間に争いがない。

そして<証拠>によれば、原告、訴外会社間の右昭和四〇年二月九日付の銀行取引契約、およびこれにもとづく昭和四二年八月八日付の債権極度元金額についての定めはそれぞれ金一一〇、〇〇〇ドル、および金三五〇、〇〇〇ドルであつた事実が各認められる。

(二)また、被告が原告との間に、昭和四二年八月二六日付、前示原告、訴外会社間の銀行取引契約(原契約)および債権極度元金増額契約にもとづき、訴外会社が原告に対し取引上負担する債務の支払につき、極度元金額、金二五〇、〇〇〇ドル(九〇、〇〇〇、〇〇〇円)、期間、昭和四二年八月以降昭和四五年八月までとする保証契約を締結した事実は、当事者間に争いがない。

(三)、そして<証拠>によれば、前示当事者間に争いのない原告の訴外会社に対する事業運転資金の貸付取引は、昭和三九年一〇月頃開始され、当初は、被告の取引銀行である東海銀行および三井銀行の依頼保証にもとづき、原告が訴外会社に対し貸付を行なういわゆるスタンドバイ・エルシー(日本市中銀行保証信用状)の方式によつて金四〇〇、〇〇〇、〇〇〇ドルが貸付けられ、その後、まもなく、これとは別に、訴外会社の不動産に根抵当を設定したうえ、極度元金額金一〇〇、〇〇〇ドルの範囲での工事運転資金の貸付、さらに、訴外会社の米軍に対する工事(工事番号ENG一一五八・同一〇三七)債権を担保とする運転資金の貸付も行われ、その間いわゆるスタンド・バイエルシー方式による貸付金は、半年毎の借り代え更新を重ねながら、昭和四二年に入つてようやく回収を終つたが、しかし、(イ)訴外会社の不動産などを担保とする貸付については、訴外会社がそれまで原告から四口にわたり借り受けていた債務の支払担保のため原告あて振出していた四通の約束手形を書替え、昭和四三年三月三〇日、額面金額九九、九六〇ドル、満期同年四月二日、支払地那覇市、支払場所琉球銀行本店、受取人原告とする約束手形を原告あて振出したことによつて一括統合され、右同日付の同内容の手形貸付契約が訴外会社・原告間に締結されたこと、また、米軍に対する工事代金債権を担保(訴外会社が米軍関係工事を施行し、米軍に対し取得したその工事代金債権を、原告が譲渡を受け、一定割合を優先的に貸付金の弁済にあてる方式によるもの、)とする貸付については、(ロ)ENG一〇三七号工事代金債権を担保とするものは、前同様、訴外会社が、その債務の支払担保のため従前原告あて振出していた各約束手形を書替え、昭和四三年三月三〇日、額面金額金一九九、二〇〇ドル、満期同年四月二日、支払地那覇市、支払場所琉球銀行本店、受取人原告とする約束手形を、原告あて振出したことによつて一括統合され、右同日付の右同内容の手形貸付契約が訴外会社・原告間に締結されたこと、さらに(ハ)ENG一一五八号工事代金債権を担保とするものは、前同様、訴外会社が、その債務の支払担保のため従前原告あて振出していた各約束手形を書替え、昭和四三年三月三〇日、額面金額金三一、四八〇ドル、満期同年四月二日、支払地那覇市、支払場所琉球銀行本店、受取人原告とする約束手形を、原告あて振出したことによつて一括統合され、右同日付の同内容の手形貸付契約が訴外会社原告間に締結されたことが、それぞれ認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二つぎに、被告の主張中、強行法規違反をいう点について判断する。

(一)まず、本件保証契約の締結につき、大蔵大臣の許可を必要とする外為関係法令の適用があるかどうかについて判断する。

これについては、その基本的定めとして、外為法第三〇条が、「政令で定める場合を除いて、何人も……居住者と非居住者間の債権発生の当事者となつてはならない。」と規定し、右「政令の定める場合」を規定する法規として、外為令が制定され、同政令第一三条第二項本文は、同条第一項各号列挙の取引については、大蔵大臣または主務大臣の許可を受けた者が、その当事者となることができる旨規定している。そして、さらに、同令第二六条第一項は、右第一三条の規定上、大蔵大臣または主務大臣の許可を要するものとされた取引でも、大蔵大臣または通商産業大臣が、国際収支上重要でなく、また、資本の逃避のおそれがないものと認めて指定したときは、その指定された取引については、右大臣の許可を経ないで、これをなし得る旨規定している。しかして、右規定にいわゆる大蔵大臣の指定は、貿易外取引の管理に関する省令(昭和三八年省令第五八号)の規定をもつてなされ、同省令第三条は、大蔵大臣の許可を必要としない取引の一つとして別表第一一、第二項イ(3)に、「本邦法人が、その海外支店(本邦法人の支配する現地法人を含む)が非居住者から貸付または保証を受けることに関連して、当該非居住者に対して、金三六〇、〇〇〇、〇〇〇円以下の保証契約を締結する場合」を掲げる(なお、右限度額の定めは、昭和四四年八月三一日以前は、金一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円であつたところ、省令の改正にともない昭和四四年九日一日以降金三六〇、〇〇〇、〇〇〇円と改められたものである。)。

しかして、右別表の定めにいう「本邦法人の支配する現地法人の意義については、外為関係法令上、明文の格別の定めはないので、右指定制度の趣旨、目的にてらし、その意義を決すべきものと解されるところ、右別表の定めは、「国際収支上重要でないこと、」または「資本の逃避のおそれがないこと」の実質を備えることを要件に、外為令第二六条第一項の授権によつて規定されたものであること、明らかである。したがつて、外為令第二六条第一項のその実質要件に即し、右「支配する現地法人」の意義を推認すれば、別表の定めが許可を要しない保証の限度額を金三六〇、〇〇〇、〇〇〇円(本件保証契約締結時における限度額は金一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円)に限定したことは、「国際収支上重要でない場合」をその取引金額の面から類型化したものと考えられるので、本邦法人の現地法人に対する支配の有無は、右両者の関係が、実質上「資本の海外逃避」の事態を惹起せしめるものかどうかによつて判断すべきものと考えられる。換言すれば、当該現地法人を本邦人が支配するかどうかの判断に際しては、右別表の規定が、本邦法人の海外支店に適用されることを本則としていることをも考慮すれば、当該現地法人の設立動機ないし目的、営業種目、資本の構成、本邦法人との人事交流、業務運営の実際における連けい、指揮命令関係などを総合勘案し、当該現地法人が本邦法人と形式上別個の法人として設立され、その株式の過半数を本邦法人によつて保有されていなくても、なお、右の各点について本邦法人の指揮命令ないし強度の影響下にあり、あたかも、その海外支店における場合と同様に、本邦法人に従属し、当該現地法人のなす取引の効果が、経済的帰すうないし利害の面においては、実質的に、本邦法人に帰属するとみられるような関係にある場合をもつて、右別表にいう支配関係にあるものと解するのが相当である。けだし、かかる場合においては、本邦法人が、現地法人のために保証をなし、これにもとづく出損をなしたとしても、それは、本邦法人が、同種の出損を自己の海外支店のためになしたと実質上は同一、これによつて、本邦法人が、実質上自己の経済的な利益帰属に関係のない他人である現地法人のためにのみ、その資金を出損したとはいえず、かかる場合には、外為令第二六条第一項にいわゆる資本の海外逃避の事態が生じたものとすることはできないからである。

(二)そこで、つぎに右説示したところにしたがい、被告の訴外会社に対する支配関係の有無について検討する。

<証拠>によれば、被告と訴外会社の関係については、次の事実が認められる。

被告は、昭和三三年頃、沖繩駐留米軍の送電線工事を入札受注したことを機縁として、沖繩工事部を設け、右工事完成後、沖繩現地で同種工事を手がけていた。ところが、昭和三七年末ないし三八年初め頃にかけ、米国政府のドル防衛政策にともなうバイ・アメリカン政策が、沖繩現地の米軍工事にも適用され、沖繩において外国会社の地位にあつた被告は、米軍関係工事の入札資格を失うに至つた。そこで、被告は、現地進出以後の技術、信用を継続して活用し、被告業務の一部を肩替りさせるため、昭和三三年三月二〇日付をもつて訴外会社を設立した(訴外会社の設立およびその日時については、当事者間に争いがない。)。訴外会社は、被告同様の事業目的を掲げ、被告の沖繩工事部職員六名が、その発起人に参加し、被告の用立てした資金、金五、〇〇〇ドルを当初払込資金として設立された。しかして、その払込資本金は、昭和三九年四月、金二〇、〇〇〇ドル、昭和三九年八月金三五、〇〇〇ドルと増加され、その結果、被告は、その役員ないし従業員名義をもつて、前示払込資本金の五分の一にあたる金七、〇〇〇ドル相当の株式を保持するに至つた。しかして、訴外会社の昭和四三年六月三〇日現在の株主総数は、二五名とされているところ、そのうち、実際に株金を払込んだ株主は九名で、これらの株主の保有する株式数は、総株式三、五〇〇株中わずか五〇〇株にしかすぎず、残余一六名のいわゆる名義株主は、出資ないし株主権を行使した事実がない。また、訴外会社は、その役員の構成も、発足当時、発起人の総代であつた被告沖繩工事部職員平良嘉雄が代表取締役に就任したのを皮切りに、発足以来、昭和四四年頃までの間に、被告会社社長であつた村山益敏が、相談役あるいは会長ないし取締役に、同じく被告会社取締役であつた田島康相、青山左近が顧問ないし取締役に、また、被告沖繩工事部の現職職員が、支配人あるいは取締役に就任するなど、昭和三九年三月以降の若干の期間を除いて、ほぼ一貫して、被告会社の現職の役員、職員などが、こもごも、訴外会社の役員を兼務する体制が続いていた。また、訴外会社は、その日常の業務運営についても、原告ら他から融資を受けるに際し、被告の保証をあおぐなどしていたほか、その工事の技術につき、被告から技術指導を受け、また、決算期などを中心に、年二、三回現地沖繩に出張してきた被告会社の田島康相、青山左近らに、その経理の指導や調査を受けていた。そして、被告が内地で受註した米軍工事を訴外会社が下請し、逆に、訴外会社が沖繩で受註した米軍工事を被告が下請し、それぞれ施行するなど業務上の提携関係にあつたこともあつた。とくに、両者の密接な関係は、訴外会社について、金一、〇〇〇、〇〇〇ドル近い粉飾決算が発覚した昭和四二年四月頃から、その密度を高め、その頃から、前示田島、青山が、交替で内地から出張し、訴外会社に常駐するようになり、訴外会社の経理運営など重要問題については、当時の訴外会社の代表取締役佐々宏を排して、直接田島、青山に連絡相談するよう、原告に言明したようなこともあつた。しかして、訴外会社の経営が行きづまり、本件保証契約の締結が問題となり、その折衝が行なわれるようになつてからは、訴外会社の再建問題について、ほとんど被告会社の役員が、原告との間で、その衝にあたつた。

<証拠判断―略>

そうすると、被告が、訴外会社設立当初から、その資本出資、役員の派遣、選任、業務運営、経理の操作、監督など各般にわたつて、訴外会社と密接な関係をもち、強度の介入、提携ないし後見をなしてきた事実は、右認定の事実から容易に看取できるところであるが、一方、<証拠>によれば、被告が、訴外会社を設立するに際し、沖繩工事部職員を発起人にしたのは、同人らが現地出身者で、現地法人の設立につき、好都合であつたこと、被告の役員、職員が訴外会社の役員に就任したのは、被告が、訴外会社に投資し、その工事の保証をなしたこと、技術指導を行なう必要があつたこと、青山、田島らを訴外会社に年二、三回派遣し、経理の指導、調査などにあたらせたのは、被告が、訴外会社が他から融資を受けるに際し、保証をなしたり、器材売却代金債権などを訴外会社に対し有していたこと、昭和四二年四月以降、青山、田島らが、交互に訴外会社に常駐したのは、その頃、訴外会社に粉飾決算が発見されたり、当時の訴外会社代表取締役佐々宏の経営に被告の期待にそわない点があつたことなど、それぞれについて、その固有の理由ないし背景と目すべき一時的な特別の事情が存したことが認められ、また、昭和三九年初め頃、米国CIDの四か月間にわたる調査の結果、被告が訴外会社を支配するものでないとの結論を得たことがあること、その他、被告、訴外会社間の相互の下請施行は、その件数も少なかつたことも認められ、右各認定を左右するに足りる証拠はない。

しかのみならず、前示訴外会社に多数の名義株が存する点も、それが、全て実質上被告の出資、保有にかかるものであるとするまでの証明はなく、また、相当な頻度で被告の役員が、訴外会社に出張し、あるいは常駐したとの点も、右役員らが、被告会社の意を受けて、訴外会社の事業運営について、現実に果した役割ないし言動の具体的程度については前示のほかに、これを立証する証拠がなく、結局、被告沖繩工事部の事業運営の実態、訴外会社の事業運営の実態、両者の相互関係など被告が訴外会社を支配していたかどうかを判断するうえで看過することのできない重要な諸点について、十分な証明がないことに帰する。

そうすると、前示前段に各認定したところを総合しても、被告が、訴外会社の事業運営に多大の関心をもち、その組織、資本、出資、事業運営の実際につき各般の強力な介入提携ないし後見をなし、密接な関係を設定、維持してきたまでの事実は肯認できるものの、被告が、それ以上に、訴外会社の組織ないし事業運営の実際を、あたかも被告の支店に対すると同様、これを従属下におき、その日常の業務運営について、指揮、命令ないし監督をなして、支配し、かつ、その事業運営上の経済利益の帰属を一にしていたものとまでは認められないこととなる。

したがつて、訴外会社については、これを被告の支配する現地法人であるとすることはできない。

してみれば、本件保証契約の締結については、外為令第二六条第一項の規定にもとづく貿易外取引の管理に関する省令第三条・別表第一一、第二項イ(3)の規定が適用される余地はなく、右取引は、外為令第一三条第一項第一号の列挙するところに該当するところから、これをなすについては、同条第二項の大蔵大臣の許可が必要であり、右許可がなされていない以上、右取引は、外為法第三〇条第三号ないし外為令第一三条第一項本文、同第二項本文の規定に違反するものといわざるを得ない。

(三)つぎに、外為法第三〇条ないし外為令第一三条第一項本文同第二項本文の規定のいわゆる強行法規性について判断する。

これについては、前示外為法第三〇条ないし外為令第一三条第一項本文、同第二項本文の規定に違反し、なされた取引の私法上の効力について、外為関係法令上、直接、これを律すべき明文の規定がないので、該規定が、これに違反する取引の私法上の効力を否定するいわゆる強行規定たる性格を有するかどうかについては、結局、該規定を含む外為法ないし外為令の立法趣旨、目的、とりわけ、該規定の定める規制の私法上の取引秩序に対する関係、右該規定による規制の取引秩序内における定着性ないし恒久性、該規定違反の取引を私法上有効とするときにもたらされる公益上の障害の有無ないしその程度、一般取引の安全に及ぼす影響、右取引に対する社会の倫理的評価、当事者間の契約上の信義ないし衡平を総合勘案し、判断しなければならない。そして、もし、該規定が外国為替ないし外国貿易について行政的ないし刑事政策上の規制を行なうことを主眼として制定され、その規制、内容も、外国為替ないし貿易取引の基本秩序を維持し、これを組成するが如きものではなくて単に既存の外国為替ないし貿易取引の自由を外部的に規制する方向、態様でなされ、そして、右規制期間も、特殊の一時的な行政上の要請にもとづくものとして臨時、短期間のもので、とくに右規制が既存の取引秩序の中に恒久性あるものとして定着しているのではなく、該規定違反の取引の効力を否定しなければ、それを行政的ないし刑事上規制するだけの場合に比して公益上、多大の支障が生ずるような事情もなく、かえつて、該規定違反の取引の効力を否定するときは、一般取引界に不安、危険を与えることが予想され、しかも、現時の社会通念からして該規定違反の取引に対する社会の倫理的非難もさほど著しくなく、一方当事者に該取引の無効を主張させることは、相手方に対する信義を破り、客観的にみても、取引上の衡平を欠き、契約的正義に反する結果を招来すると認められる場合においては該規定に、右取引の私法上の効力を否定するほどの効力は与えられていないものとし、これを単なる行政上の取締法規と解するのが相当である。

いま、これを本件についてみるに、外為法は、その第一条に立法の趣旨、目的として、「外国貿易の正常な発展を図り、国際収支の均衡・通貨の安定および外貨資金の最も有効な利用を確保するために必要な外国為替、外国貿易その他の対外取引の管理を行ない、もつて国民経済の復興と発展に寄与すること」を規定しており、しかも、同法は本来自由になさるべき対外取引について、各種の行政上の制限措置を規定することからすれば、前示、規制規定を含む同法ないし外為令は、国民経済の規制を目的とするいわゆる統制法規に属するものと解される。そして、同法ないし外為令の規定する各種の規制措置は、主として行政上の制限を賦課する形態をとることから看取される如く、本来自由になさるべき対外的な私法上の取引の基本秩序を、これらの規制措置を設定する方法によつて、新たに形成、維持しようとするものではなくて、既存の対外取引の自由を、前示国民経済上の要請から、外部的に行政権力によつて一部制限しようとする趣旨のものであるにとどまることが、看取される。しかも、その規制措置の行なわれる期間も、外為法第二条に、「その必要の減少に伴い逐次緩和または廃止する目的をもつて再検討するものとする。」と規定している如く、短期、臨時の期間を予定し、該規定による規制を永続、恒常的な形態で対外取引の自由原則を修正せしむべく、その中に定着せしめようとするものではない。また、外為法の企図する外国貿易の正常な発展、国際収支の均衡、通貨の安定、外貨資金の有効な利用確保の目的は、同法の対象とする対外取引について、同法規定の各種の行政上の規制をなし、あるいは刑事制裁を科することによつて、一応達成できるものと考えられ、それ以上に該規定違反の取引を私法上無効としなければ、右各目的がとうてい達成できないものとまでは断言できない。しかのみならず、右取引を私法上有効とした場合は、前示同法の規定する行政上の規制ないし刑事上の制裁を発動したにとどまる場合に比し、とくに、公益上の支障が増大することはうかがえず、かえつて、該規定違反の取引を私法上無効とするときは、右対外取引の有効を前提として、その当事者と取引をなす第三者の利益を著しく害し、一般取引界におよぼす不安、危険は大きく、場合により、対外取引上、国際信用を阻害するなどの憂慮すべき事態を招来しないとはいえない。しかも、前示の如く同法の規制違反に対しては、同法第七〇条の規定によつて刑罰の制裁が科されているものの、それ自体行政目的を確保するためのいわゆる行政刑罰にすぎず、現時の社会一般の倫理観念にてらし、該規定違反が格別きびしい道義的非難を浴びるに足りる行為とまではいえない。かえつて、該規定違反の取引について、その効力を否定し、当事者の一方にほしいままに無効を主張させることこそ、その者に債務免脱の口実を与え、結果的に相手方に対する不信義を許容し、一方当事者の利益を著しく損う不公平な事態を生ぜしめ、むしろ、私法取引に関する契約上の正義感情を無視する結果ともなる。

したがつて、居住者と非居住者間の対外的取引についてその当事者となることができないとした外為法第三〇条の規定ないし大蔵大臣または主務大臣の許可を受けた者が外為令第一三条第一項各号列挙の当該取引の当事者となりうるとした同令第一三条第二項本文の規定は、これに違反した取引の私法上の効力を否定する強行法規たる性格を有するものと解するのは相当でなく、これを単なる行政統制上の取締規定と解するのが相当である。

してみれば、該規定が、いわゆる強行法規であり、右規定に違反し、大蔵大臣または主務大臣の許可を得ないでなされた本件保証契約は無効であるとの被告の主張は、その前提を欠き、主張自体失当として排斥を免れないところである。

また、被告の主張中、対外取引にともなう支払の禁止について規定した外為法第二七条違反をいう点も、同条がその基礎となつた対外取引自体の規制とは別個に支払行為自体を規制していること、同条の規定にもとづく政令の定めである外為令第一一条による主務大臣の支払許可は、単に当該支払債務の執行にあたつて考慮すべき執行開始の要件にすぎないと解することを相当とすることなどを勘案すれば、外為法第二七条の規定によつて、対外支払が禁止されていることの故をもつて、その支払債務の基礎となつた取引の効力に当然消長が及ぶものと解するのは相当でない。

したがつて、この点に関する被告の主張も、それ自体失当である。

三つぎに、被告の主張中、本件保証契約の条件付をいう点について判断するに、これについては、外為令は、その第一三条第二項本文に大蔵大臣または主務大臣の許可をもつて、外為令第一三条第一項各号列挙の対外取引の禁止を解除できる趣旨の規定を置くのみで、右許可をもつて、当該取引の効力の発生の停止条件とする旨の規定を置かないところは明らかなるところ、その他、外為関係法令上、被告主張と同趣旨と目すべき規定もこれを見出すによしないところである。(しかのみならず、本件保証契約の締結が大蔵大臣の許可を要せずして私法上有効になし得ることは、前示縷説のとおりである。)したがつて、他に、原、被告が、大蔵大臣の許可をもつて、本件保証契約の停止条件としたまでの事実を証拠上認むべくもない以上、被告のこの点に関する主張は、排斥を免れない。

四つぎに被告の主張中、錯誤による無効をいう点について判断する。

原告の訴外会社に対する貸付取引は、従来は原告と被告沖繩工事部との間の取引として、訴外会社設立当初は、被告のスタンドバイエルシー(市中銀行保証状)方式によつて、訴外会社の事業運営上の運転資金の貸付として行なわれてきたこと、その昭和四三年四月二日現在における貸付返済未済元金は、(イ)九九、九六〇ドル、(ロ)一九九、二〇〇ドル、(ハ)三一、四八〇ドルの合計金三三〇、六四〇ドル(金一一九、〇三〇、四〇〇円)に及んでいたこと、右(イ)の貸付債権については原告が、訴外会社所有の不動産などに抵当権を設定し、(ロ)および(ハ)の貸付債権については訴外会社が、米軍関係工事を請負施行し、米軍に対し取得したその工事代金債権を、原告が譲渡を受け、一定割合を優先的に貸付金の弁済にあてることによつて、それぞれの債権を担保する方途を講じてきたことは、前判示のとおりであるが、<証拠>によれば、本件保証契約締結前後の経緯については、つぎの事実が認められる。

原告は、昭和四二年四月当時、前示(ロ)および(ハ)の貸付債務の弁済につき、前示米軍から支払われる工事代金中優先弁済を受ける割合をその支払金額の七〇パーセントとして貸付金の回収を図つてきたところ、訴外会社は、右時期頃より、資金繰りが悪化して、折柄、受注施行中の米軍工事の進行が遅延するに至つた。そのため、昭和四二年四月、米軍当局から原告に対し、訴外会社の資金繰り状況を改善し、軍工事の進行を促進するため、原告の右回収率七〇パーセントを二〇パーセント低減し、五〇パーセントとするよう要望があり、原告は、訴外会社からの貸付金回収率を五〇パーセントとすることに同意した。しかしながら、その後、同年七月に入るや、再び、原告は、米軍当局から、さきの低減措置により回収率五〇パーセントとしたが、なお、訴外会社の資金繰りが悪く、施行中の米軍工事の完成がおぼつかないため、前示回収率をゼロに引下げるようにとの要望を受け、また、あわせて、もし、原告が、右低減措置をとらない場合は、訴外会社において、米軍工事を完成する見通しがないので、訴外会社から右米軍工事をとり上げざるを得ない、との説明を受けた。しかして、当時、訴外会社が、工事の完成に伴い米軍から支払を得られる代金債権は約金四〇〇、〇〇〇ドル強であり、原告としては、前示四月の措置による五〇パーセントの回収を続ければ、工事請負代金債権を見送りとする金二三〇、〇〇〇ドル余の貸付金中、約金二〇〇、〇〇〇ドルの回収が可能であつたものの、米軍の要請に全面的に従うときは、右債権回収の方途を失う結果となるので、前判示のとおり従前から訴外会社と密接な関係にあつた被告に、その保証を依頼することとして、昭和四二年七月下旬、当時、沖繩に在駐していた被告役員青山左近にその旨原告の意向を伝えた。そして、青山左近の連絡を受けた被告は、訴外会社代表取締役佐々宏を被告本社に呼び、事情を聴取するとともに、さらに、原告の具体的な意向を調査し、その対処策を得るため、田島康相取締役を沖繩現地に派遣して、原告の営業部長百名健治、貸付課長中山吉一と折衝させた。

しかして、右百名健治、中山吉一と田島康相との折衝の過程で、被告の本件保証応諾の条件として、原告は、自己が訴外会社の再建について協力する基本的立場から、当時、訴外会社が原告に対し、有していた貸付取引の限度額金一〇〇、〇〇〇ドルを金三五〇、〇〇〇ドルに増額し、また、訴外会社の首脳人事の交替に伴う新担当者を推薦すること、を被告に約したほか、被告に対し、本件保証契約の締結については、外為関係法令の適用上、とくに類似の先例もあるので、大蔵大臣の許可は必要でなく、手続上は問題がないと説明した。

また、右折衝の過程で、原告が、具体的な融資については、被告の各個の保証をも条件にケースバイケースで前向きに考えていくとの意向を示したこともあつたため、田島康相は、貸付取引限度額の増加額金二五〇、〇〇〇ドルのうち、米軍工事による赤字約金二三〇、〇〇〇ドルの回収延期措置の残金額約金二〇、〇〇〇ドルないし三〇、〇〇〇ドルの範囲内ならば、原告が、訴外会社に対し、その運転資金として、場合場合に応じ、新規貸付をする意向をもつているものと考えるに至つた。

そして、田島康相から、右沖繩現地での折衝の経過について報告を受けた被告は、前示訴外会社に対する密接な関係や訴外会社の再建が被告の利益にもなること、その他原告が訴外会社の再建につき前向きの姿勢を示していることを了として、結局、訴外会社再建のため、基本的には、原告の本件保証要求には応ずべきであるとの判断から、最終的に取締役会の決議をうるなど内部での意思決定はしなかつたものの、米軍当局へ回答をする必要上、被告の基本的な意向を文書で示されたいとの原告の要望もあつて、同年八月三日付、取締役社長村山益敏名義をもつて、訴外会社施行の米軍工事の(続行)問題について、原告が前示の回収延期措置をとることを感謝し、被告としては、訴外会社による完済を強力に指導するほか、全面的にバックアップをなし、原告に迷惑をかけないなどの趣旨の書簡を、訴外会社代表取締役佐々宏を通じて、原告あて手交した。ついで、被告は、右書簡によつて原告あて表明したところにしたがつて、同年八月一一日、取締役会を開催し、本件保証契約の締結に応ずることを、何等条件を留保しないで、内部的に正式に決定した。さらに、また、被告は、同月二五日、原告東京事務所において、村山取締役社長・田島取締役の両名が、原告の伊江東京事務所長、百名営業部長の両名と会談した際も、席上「当時、訴外会社が施行中の米軍工事について、原告が約定の返還条件を続行すれば、訴外会社は工事の完成ができず、最終的に約二五〇、〇〇〇ドルの資金不足が生ずることから、自己(被告)の保証を条件に訴外会社が原告から貸付金の回収猶予を受けるものである。」ことの趣旨を確認し、あわせて、今後の再建策のうち訴外会社の運転資金として、今後必要な約金四〇〇、〇〇〇ドルのうち、外資導入の方法でまかない得ない約二〇〇、〇〇〇ドルの調達については、原告が被告の保証によりケースバイケースで融資する旨提案したのに対し、被告は別途検討する旨回答した。また、民間工事の受注については原告から積極的な援助をすることが表明され、さらに、訴外会社再建のためにする人事については、被告が候補者を示し、原告と協議することに意見の一致をみるなど、従来両当事者間折衝の過程で話しあつた諸点のうち、その一部については、若干具体化した話しあいがなされた。しかし、残余の点については右の席上で、なお具体的な成案を得るまでに至らず、今後の課題として残された。

そして右会談のうち、被告は同月二六日、保証書はじめ本件保証契約の締結に必要な書類を原告あて手交し、ここに本件保証契約の締結手続は完結するに至つた。

しかして、その後、原告は、本件保証契約締結の際の約旨にしたがつて、米軍に対する訴外会社の工事請負代金債権中からの前示五〇パーセントの回収を停止した。その結果訴外会社は、米軍から逐次支払われる右工事代金をそのま事業運営の資金に活用でき、当時施行中の工事について、米軍から請負契約を破棄されることもなく、これを完成することができた。すなわち、右原告の措置により、訴外会社は、本来、原告が五〇パーセントの割合で回収し、あるいは回収し得べき金額に相当する約金二〇〇、〇〇〇ドル余を原告から再貸付を受けたと同様、事業運転資金に利用する利益を得た。また、原告は、前示のとおり、原・被告間では、訴外会社に対する民間工事の斜旋につき、具体的な合意をしたわけではなかつたが、前示一連の折衝の経過に鑑み、アメリカン・フォートサーヴィス社にその社屋建設資金を融資するに際し、右工事を訴外会社に発注するよう配慮し、その結果、訴外会社は、右工事を受注することができた。さらに、原告は、訴外会社の再建人事について、被告側との協議にも応じ、その結果、安田善治が、ひとまず訴外会社の代表取締役に就任したこともあつた。

<証拠判断―略>

そこで、右認定の各事実を前提にして、被告の主張について検討するに、なるほど、本件保証契約の締結については、被告主張のとおり、大蔵大臣の許可を要し、その許可を経ないで右取引の当事者となることについては、外為法上刑事罰の制裁が規定されているものの、被告は、本件保証契約締結の当時、右大蔵大臣の許可の要否について原告から説明され、これを単に手続の要否という観点からのみ了解し、とくに、大蔵大臣の許可が必要であれば本件保証契約の締結を断念するとか、あるいは、早速その手続を経たうえ、はじめて保証契約の締結に応じるとかいう程にこれを重視し、あるいは、許可の有無が刑事上の制裁につながるなどの点を考慮して、右原告の説明を再度確認するなどの処置までもはとらなかつたこと明らかである。

したがつて、本件保証契約の締結につき、大蔵大臣の許可を得ることの客観的な重要性は認められるものの、現に、被告が、本件保証契約の締結に際し、この点を重視し、その態度を決するにつき、被告の右説明を主要な動機となしたことを認むべくもない以上、本件保証契約の締結に際し、右の点が、折衝過程で開示されたとしても、これが被告にとつて、本件保証契約を締結するという法律行為の要素となつていたとはいえず、被告の意思表示について、民法第九五条にいわゆる「要素」の錯誤が存したものとはいえない。

また、前示のとおり、原・被告が、本件保証契約を締結するに至る過程において、訴外会社の再建などについて、原・被告双方の話しあいがなされ、被告が、本件保証契約の締結に応ずれば、原告により、資金・人車・工事斡旋などの面である程度積極的に支援を受けられるものと信じ、これを期待したことは認められるが、しかし、前示原・被告間のいわゆる再建条件に関する話しあいが、貸付限度額の増額の点を除いては、何等具体的内容をもたず、それ自体抽象的な相互の基本方針の確認にとどまつたことにてらせば、被告が本件保証契約を締結した主要な動機は、いわゆる再建条件の具体的な履行の点に存したのではなくて、むしろ、前示の如き被告の訴外会社に対する密接不可分な問題からして、訴外会社が原告から債権回収の猶予の措置を得、その結果、米軍工事を完成し、再建の目途を得れば、被告としても、それが自己の経営上の利益にそうと判断した点にあつた、ものと認めるのが相当である。

このことは、原・被告が、これらいわゆる再建について、本件保証契約の締結までの間に、その内容を具体化すべく、相互に事務レベルで検討し、これについて具体的な成案を得たなどの事実が認められない点からしても、十分うかがえるところである。

したがつて、それ自体抽象的・一般的な今後の再建の方針方向をいうにすぎないいわゆる諸条件が、原・被告折衝の過程で表示されていたとしても、これが、本件保証契約を締結するという法律行為の要素となつていたとはいえず、被告の本件意思について、民法第九五条にいわゆる「要素」の錯誤が存したものとはいえない。

そうだとすると、被告の錯誤による無効の主張は、いずれも排斥を免れないこととなる。

五つぎに、被告の主張中、原告の詐欺をいう点について、判断するに、前示四で認定した事実関係からすれば、原告は、当時行なつていた債権回収の措置を猶予し、その見返りに被告から保証を取りつけたこと、その際の交換条件ともいうべき債権回収措置の猶予は原告において現実にこれをなしたこと明らかであり、この点について、原告が右保証契約締結の過程において、金融機関として取引上非難さるべき不信義なかけ引きないし欺罔手段を施用し、これによつて被告を欺罔したとの事実は、これを肯認するによしないところである。

したがつて、詐欺による取消に関する被告の主張は失当である。

六被告の主張中金三〇、〇〇〇ドルないし四〇、〇〇〇ドルの弁済をいう点も、かりに、右主張の金員が訴外会社から原告に支払われていたとしても、前掲一で認定したところによれば、被告が本件保証契約にもとづき原告に対し負担した保証元本極度額が金二五〇、〇〇〇ドルであるのに対し、昭和四三年四月二日当時訴外会社が原告に対し負担していた主債務元本額は金三三〇、六四〇ドルと、金八〇、六四〇ドル多く、右金額は、主債務に対する弁済主張額を優に超えるものである以上、とうていこれをもつて、原告の本訴請求の保証元本債権ならびにこれに対する遅延損害金債権の一部を消滅させるに足りないこと明らかで、この点に関する被告の主張は排斥を免れない。

七そうすると、前示一ないし六で認定した事実にてらせば、被告は、原告に対し、取引上負担した保証元本額債務金九〇、〇〇〇、〇〇〇円、およびこれに対する本訴状の送達の翌日であること訴訟上明らかな昭和四三年六月二二日以降弁済までの間、年六分の割合による遅延損害金を支払う義務あるものというべきで、結局、原告の被告に対する本訴請求は全て理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、なお、仮執行の宣言については相当でないから、これを付さないこととし、主文のとおり判決する。(山田正武 日高千之 鬼頭史郎)

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